「最近のキャラデザ」の話

最近のアニメのキャラデザと10年前のアニメのキャラデザ - WebLab.otaを読んで。既にブックマークコメント等でさまざまな視点で意見が出ているが、個人的に思ったことを。

顔の骨格について

マンガではあるが、この記事であげられた「最近」と「10年前」にぴったりハマるなあと思ったのが、あずまきよひこの「あずまんが大王」だ。昨年10周年企画として発売された「新装版」では、10年前の絵柄と最近の絵柄が混在しているのでサンプルとしても適切かと思う。画像は「1年生」の滝野智イラスト。左が10年前の絵柄(旧版もっていないので、もしかしたら修正されているかも)、右が2009年の書き下ろし「補習編」から。首の傾げ方が逆で、やや角度は異なるがどちらも左前側から見た絵だ。

左は頬骨から上あごが非常に高く、下あごが引っ込んでいる。10年前のトレンドだった後藤圭二のキャラクターに通じる骨格だ。この骨格の特徴は、輪郭と正中線(人体の中央を通る線)、目の高さのラインを抽出するとわかりやすいと思う。ラフで申し訳ないが、下に図示する。

左の正中線が目の下で極端に曲がったラインを取っていることがわかるはずだ。対して右は、正中線のライン、やや高めの目の高さ、頭頂部からあごまでの高さと横幅の割合など、比較的現実の人間に近い骨格をもっている。

他にも、目立つ違いを挙げるとこんなところか。

  • まつ毛の省略(実際に人を見るとき、どこまで近づけばまつ毛の1本1本を認識できるか考えてみるとよいかも)
  • 目がやや小さめ
  • 首がしっかりしている
  • 髪のはねの表現が控えめに

これらは、すべて現実の人間に近いリアルな方向への変化だ。「よつばと!」での、日常の小さな出来事を(よつばにとってはひとつひとつが大きな出来事だけれど)ていねいに表現するために、精緻に背景を描く。現在のあずまきよひこの作風にふさわしいのはどちらのスタイルのキャラクターなのか、ということになるだろう。

これと同じような変化がアニメでも起きているのではないか。実写画像を取り込んだ背景、3Dソフトを使ったレイアウトに入れ込んで違和感のないキャラクターが必要になっているのではないだろうか。

また、BD/DVDとして売ることが前提となった現在のアニメでは、背景だけでなく日常芝居のリアリティあるいは密度が求められているという事情もあるのかもしれない。「御先祖様万々歳!」(1989年)以降のリアルな日常芝居への志向が、いわゆる「美少女アニメ」にも広がってきたというか。リアリティと萌えの両立。

リアル志向で突っ走った作品として「人狼 JIN-ROH」(2000年)が思い浮かぶのだけれど、「萌え」どころかマンガ的・アニメ的な魅力が感じられないキャラクターだった。人狼でキャラクターデザイン・作画監督を務めた西尾鉄也が、「NARUTO」(2002年)で立体として破綻しない現実的な骨格と、アニメ的な良さも併せ持ったデザインを成立させたのが大きいのではないかと、個人的には考えている。

おまけ:影について

ブックマークのコメントでも、影のつけ方の違いが指摘されていた。アニメキャラクターの「影」について、「御先祖様万々歳!」のうつのみや理がWEBアニメスタイルのインタビューで答えている。以下に引用。

うつのみや まずひとつは、影をリアルに落とすという事です。それは単純な事なんですけど、当時のアニメーションの世界には広まっていなかったんですね。それまでは物に影が――しかも計算なく漠然と――ついているような状態だったんです。だから、手が前にきても、その影が体には落ちなかったりする。それもアニメのひとつの方法論としてはありだろうとは思うんですけれど、そればかりではつまらない。やっぱり、光源を考えてもいいんじゃないか、という事を提示したんです。
WEBアニメスタイル_アニメの作画を語ろう

影は「光源を考えて」つける、適当につけるくらいならない方がマシ、というのが現状ではないかと思う。「最近」のアニメである「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」から逆光のリオ。

室内で窓を背負ったときの影。厳密な意味で正しいとはいえないが、光源を意識するのが当たり前になってきていることの例として。

2010.01.29追記

id:mattuneさんが、うつのみや的デザインについてずっとわかりやすく解説している。

90年代は湖川友謙の手法が美少女絵に導入された時代、

00年代はうつのみや理の手法が萌え絵に導入された時代


もうこれは絶対なんだ。

あずまんが大王」にうつのみや手法の蔓延を見る

田中達之アニメ史観的には絶対。
90年代と00年代 - まっつねのアニメとか作画とか

また、私のブックマークコメントへの応答としてブコメレス〜湖川手法の広まり方について〜 - まっつねのアニメとか作画とかで、さらに詳細な解説が。アニメのキャラクターデザインの系譜について興味のある人は必読だと思う。