前髪3ミリ。

けいおん!関連の楽曲は歌詞も素晴らしいのだが、語る人が少ないので書いておく。今さらながら1期OP「Cagayake!GIRLS」について。好きなところはいっぱいあるけれど、2番のこの部分。

前髪3mm 切ったら見えた

桜高軽音部・作詞:大森祥子Cagayake!GIRLSポニーキャニオン 2009年

1番のスカート丈に対応する部分。「前髪を切る」というモチーフ自体は、ガールズポップのイディオムになっている感があり、例えばEPO「切りすぎた前髪」(1986年)、aiko「シャッター」(2006年)、アニメではエスパー魔美ED「不思議Angel」(1987年)など。源流はおそらくこの曲ではないだろうか。

前髪1mm 切りすぎた午後 あなたに会うのが ちょっぴりこわい

松田聖子・作詞:松本隆『赤い靴のバレリーナCBSソニー 1983年

シングルではないアルバム収録曲ながら、リリース時にはこのフレーズがかなり話題になった記憶がある。松本隆時代の松田聖子マニアである中川翔子なら「可愛い!乙女!」とか言いそうだ。*1

どちらかといえばネガティブ方向の(切り「すぎる」で明らか)出来事として歌詞に組み込まれてきた。それを踏まえて「Cagayake!GIRLS」を聴くと、80年代からの「可愛い」の文脈をひっくり返しているように感じる。ただ元気な女の子を描きたいのなら、あえて前髪を切ることをモチーフにしないのではないだろうか。自分の感覚では80年代的な可愛らしさの方が「萌え」要素としては適切だと思うので、OPの歌詞でその反対を取ったけいおん!が「ただの萌えアニメ」なはずはない、と思う。

蛇足だが、「文脈」という意味でいえばEDの「Don't say "lazy"」にこんな歌詞がある。

五臓六腑 満身邁進

桜高軽音部・作詞:大森祥子『Don't say "lazy"』ポニーキャニオン 2009年

この「満身邁進」の部分は、おそらく「Mercy, Mercy」にかけている。マーヴィン・ゲイ「Mercy Mercy Me」、ローリング・ストーンズ「Mercy Mercy」など、ジャズ、ソウルからロックンロールまでよく出てくる表現。「Have mercy on me」で、「お許しを」「慈悲を」みたいな意味で、「グダグダだけど許してー」みたいな"lazy"にぴったりのフレーズ。偶然ではなく、作詞の大森祥子さんが意図して入れたフレーズだと思う。

*1:ちなみに松本隆飯島真理「1グラムの幸福」(1984年)で前髪を1センチ伸ばすパターンの詞も書いている。